札幌高等裁判所 昭和49年(う)173号 判決 1974年9月10日
被告人 宮西文明
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役三月に処する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人田村誠一提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用する。
検察官の意見にかんがみ、量刑不当の論旨にさきだち職権で判断するに、原判決は、判文上明らかなとおり「罪となるべき事実」として、酒酔い運転の事実と免許証不携帯の事実とを認定したうえ、両者は併合罪の関係にたつとなし、刑法四五条前段、四八条本文を適用している。
しかしながら、本件酒酔い運転と免許証不携帯とは一個の車両運転行為であつてそれぞれの罰条に該当するものと解すべきであるから、右両罪は刑法五四条一項前段の観念的競合の関係にあるとみるのが相当である(最高裁昭和四六年(あ)第一五九〇号、昭和四九年五月二九日大法廷判決参照)。従つて、右両罪を併合罪の関係にたつとして、被告人を懲役三月および罰金五、〇〇〇円に処した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令解釈適用の誤があるといわねばならない。
よつて、弁護人の量刑不当の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により、原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書にしたがい、当裁判所においてただちにつぎのように自判する。
原判決が認定した事実に法律を適用すると、被告人の原判示第一の所為は道路交通法六五条一項、一一七条の二第一号に、同第二の所為は同法九五条一項、一二一条一項一〇号に各該当するところ、右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い酒酔い運転の罪の刑で処断することとして、所定刑中懲役刑を選択し、本件各犯行の経緯、罪質、態様および被告人の年令、性行、前科関係その他諸般の情状を総合して考察して、所定刑期の範囲内で被告人を懲役三月に処し、原審における訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書によりその全部を被告人に負担させないこととする。
以上の理由により、主文のとおり判決する。